ふなやまペインクリニック
- 日常内科診察の現場でも帯状疱疹を発症する患者に接することは少なくない。抗ウイルス薬をいかに早期に投与することが皮疹の拡大、疼痛の軽減につながることは言うまでもない。近年使用できる鎮痛薬の選択肢も増えてきた。ここでは帯状疱疹関連痛の薬物療法についてまとめてみたい。
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帯状疱疹関連痛とは帯状疱疹に関連した痛みの総称である。帯状疱疹による急性期の痛み、帯状疱疹の合併症による痛み、帯状疱疹後神経痛が含まれる。急性期の痛みは侵害受容性疼痛であり、帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛である。痛みの病態によって当然薬物療法は異なってくる。帯状疱疹後神経痛の発症からの期間については明確な定義はないが、一般には発症から3ヶ月を経過しても残存する疼痛とみなしている。
- 非オピオイド系鎮痛薬には非ステロイドセ性抗炎症薬(NSAIDs)アセトアミノフェンがある。
非ステロイドセ性抗炎症薬(NSAIDs)
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・副作用として胃粘膜障害、腎機能障害、血小板凝抑制などがある。
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・帯状疱疹では早期に抗ウイルス薬が投与されるが、ほとんどの抗ウイルス薬には尿細管障害による腎機能障害をひきおこすので、NSAIDsとの併用によりさらなる腎機能障害の危険性がある。
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・長期投与の場合は、COX選択性を考慮し使用する。
アセトアミノフェン
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・消化管や腎臓への影響は少ない。
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・肝機能障害には注意が必要である。
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・数年前までは用量が低く設定されていたが、最近日本でも、1回最大投与量1000mg、1日最大投与量4000mgが使用できるようになった。
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・オピオイド受容体は末梢神経の神経終末、脊髄から大脳皮質まで中枢神経系に広く分布し、侵害受容伝達の抑制作用も有する。
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・発症初期からNSAIDsやアセトアミノフェンにより鎮痛効果が得られない場合は選択肢の1つとして考慮する。
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・悪心、便秘、眠気の副作用があり、その対策を同時に行うことが重要である。
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・痛みによる睡眠障害を伴うような強い痛みを有する場合はオピオイド鎮痛薬を考慮する。
ステロイド薬
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・抗ウイルス薬との併用により急性期の疼痛の程度や期間を減じることができる。
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・使用に際したては免疫抑制、消化性潰瘍などの副作用に注意が必要である。
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・障害性疼神経痛の発生機序の1つであう下行性疼痛抑制系の傷害を改善して、痛みの遷延を防ぐことが役割となる。
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・三環系抗うつ薬はノルアドレナリンやセロトニンの再取り込み阻害作用により下行性疼痛抑制系を活発にする。
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・神経障害性疼痛を有する患者では抑うつや不眠などとの合併が多いので抗うつ剤の役割は大きい。
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・障害性疼神経痛の発生機序の1つである脊髄における神経需要伝達の亢進を抑制して痛みの遷延化を防ぐことができる。
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・海外のガイドラインでは帯状疱疹後神経痛の第一選択薬としてプレガバリン、ガバペンチンがあげられている。
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・ともに脊髄後角におけるシナプス前のCaチャンネルのサブユニットであるα2δに作用し、伝達物質の放出を抑制させると推測される。
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・神経障害性疼痛の強い痛みにはプレガバリンが推奨される使用には注意が必要である。副作用には傾眠、めまいがあり高齢者では少量から使用すべきである。また腎機能低下例は浮腫が出現しやすく、少量から慎重に投与すべきである。即効性はなく効果判定には数日から1週間の観察が必要である。
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急性疱帯状疹痛に対する薬物療法の項でものべたが、オピオイド鎮痛薬は下行性疼痛抑制神経系の賦活化作用もあり、帯状疱疹後神経痛の鎮痛にも使用される。
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日本ではワクシニアウイルス駅接種家兎炎症皮膚抽出液が帯状疱疹後神経痛への保険適用を有し、動物実験でその鎮痛効果に下行性疼痛抑制神経系の賦活作用の関与が示唆されている。副作用も少なく使用はし易い。
以上帯状疱疹関連痛に対する薬物治療についてまとめました。それぞれの薬物の効果が限られるため、複数の薬物を組み合わせて使用することも多い。また急性帯状疱疹痛から帯状疱疹後神経痛にいきなり変化するわけではなく、個々の症例の痛みの性状を注意深く観察していくことが必要である。
発症3ヶ月経過しなくても帯状疱疹後神経痛様の疼痛が早期に観察されれば、下行性疼痛抑制神経系賦活作用のある薬物の投与により疼痛が軽減することをしばしば経験する。
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神経障害性疼痛の特徴としては
以下の症状がある。
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電気が走るような痛み
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針で刺されるような痛み
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ヒリヒリする焼けるような痛み
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衣服が擦れたり、風があたっても痛い
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しびれを伴う痛み
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痛みの部分の感覚低下、または過敏
最後に帯状疱疹関連痛を遷延させないために最も重要なことは、帯状疱疹を早期診断しいかに早く抗ウイルス薬を投与するかにかかっていることは言うまでもない。